北の大地で研修中 ニポラー日記
家庭医・総合医をめざして北海道の各地でニポラー(ニポポ研修医ニポポ研修OB)が活躍中です。 そのニポラー(研修医とOB医師)と指導医の日記です。楽しんでお読みください 。
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2010
07,19
11:00
撤退
CATEGORY[未選択]
家族、とつぶやいてみるとなんとなくつながっている気持ちになる。しかしこの仕事をしていると様々な人間、しかも生身のうそのない姿が見えてくるときがあってそれが辛くなることもある。家族はひとつの理想のもとつながりあっているわけではない。当たり前だが、いろいろあるのである。
大村さんは威厳に満ちたじいちゃんである。
80
を超しているが元・校長先生というだけあって理知的な印象である。しかし、であるが上に病棟のスタッフからは「素直でない」と少し疎まれていることも事実であった。
大村さんは学校を辞した後、ちいさなタバコ屋を開いた。昔からタバコだけが趣味で生きてきて、小さな街に趣味が高じて店を開き、結構繁盛したらしい。しかし年々呼吸が悪くなり動けなくなった。大村さんは夫婦
2
人暮らしで息子は東京に娘も道内ではあるが遠方に暮らしそうそう手伝いも、会いに来ることすらままならない。小さな店はひっそりと閉じられた。
病院にはしばしば入退院を繰り返すようになった。在宅酸素の導入も検討されたが在宅で看るものがなく酸素を使用すれば火の元も危ない、との理由で見送られた。息子と娘は肝要なインフォームドコンセント(説明)には姿を見せたが老いた父を見る気はなく、病院にできるだけ長く預かってくれ、公立病院なんだからそれが責任では、を繰り返した。大村さんの妻はそんな皆の姿を何を言うでもなく眺めていた。
やがて大村さんの妻は認知症の症状が強く現れるようになった。出された薬を飲み忘れる、約束した日取りを失念する、そんな症状が多く出るようになった。しかしそのことに一番早く気づいたのは病院のスタッフで、息子と娘は全く気づかず相変わらず介護のすべてを母にまかせていた。
妻は大村さんを看ることに疲れた。妻の口からも
「私は疲れた、何とかして病院に夫を預かってほしい。」
と言うようになり、そして大村さんは何度目かの入院をした。
大村さんは比較的、元気であった。一度、肺炎を起こしたが概ね、順調に過ごした。リハビリも行い、病棟では笑顔であった。痩せて呼吸もしづらかったが、酸素を導入すると倦怠感もとれまたもとの大村さんに戻った。
結局、大村さんはそのまま療養型病床を探すことになった。いつまでも入院しているわけにはいかないので、なんとか在宅酸素を導入し、介護保険の要介護度を上げ、身体障害者申請をし、受けられるサービスの幅をひろげ一時的に退院した。今はどこの療養型病床も満床である。何ヶ所か当たっているが、そのどこかが空床となるいつかまで今はひっそりと二人で自宅で過ごしている。
誰が悪いというのではない。息子は東京に基盤ができ、それぞれが一生懸命生きていることだろう。娘もまた然り。それだからこそ様々な人がそれなりに幸せに生きて欲しい。
家族にもいろいろなかたちがあり、人生にもいろいろなかたちがあるのだ。多少いびつでもみんなが一生懸命生きていればそれでいい。
[3回]
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